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大阪地方裁判所 昭和38年(ワ)3145号 判決

原告 大阪ダイハツ販売株式会社

被告 森川喜夫

主文

被告は原告に対し金一五五、一八六円及びうち金一三二、〇六二円に対する昭和三八年九月一日以後完済まで年六分の割合による金員を支払え。

原告その余の請求を棄却する。

訴訟費用は被告の負担とする。

この判決は第一項に限り仮に執行することができる。

事実

原告訴訟代理人は「被告は原告に対し金一五五、一八六円及びこれに対する昭和三八年九月一日以降右完済に至る迄年六分の割合による金員を支払え。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決並びに仮執行の宣言を求め、請求の原因として、

「第一、(一) 被告は左記約束手形三通を訴外安芸電機工業株式会社宛振出し交付した。

(1)  金額四三、九〇〇円、振出日昭和三七年五月一六日、満期昭和三七年六月五日、振出地及び支払地大阪市、支払場所株式会社住友銀行阿倍野橋支店、受取人安芸電機工業株式会社

(2)  金額四三、九〇〇円、満期昭和三七年七月五日、その他の手形要件は右(1) の手形と同じ。

(3)  金額四三、九〇〇円、満期昭和三七年八月五日、その他の手形要件は右(1) の手形と同じ。

(二) 原告は右手形三通を右訴外会社安芸電機工業から裏書譲渡を受け、その所持人として右手形三通を右各満期日にそれぞれ右支払場所に呈示してその支払を求めたがいずれもこれを拒絶された。そして原告は現に右手形三通を所持するものである。

(三) その後、被告より右(1) の手形の手形金のうち、金三〇、〇〇〇円の支払を受けたので右(1) の手形金の残額と(2) 、(3) の各手形金計金一〇一、七〇〇円それに右各手形の満期日の翌日以後の別紙計算書(一)記載のとおりの手形法所定の年六分の割合による利息計金五、三〇〇円以上合計金一〇七、〇〇〇円及び右金員に対する本訴状副本送達の翌日である昭和三八年九月一日以降完済まで手形法所定の年六分の割合による利息の支払を求める。

第二、(一) 原告は自動車の販売を業とするものであるが、昭和三七年四月九日訴外野口輝雄に対し、ダイハツ号軽三輪自動車(三大に六〇八七号)一台を代金二五八、〇〇〇円、即時内金として金三〇、〇〇〇円支払うこと、残金は一二回に分割し、昭和三七年五月から同三八年四月まで毎月一六日に一九、〇〇〇円づつ支払うこと、分割金支払の不履行あるときは一〇〇円につき日歩三〇銭の割合による遅延損害金を支払うこととの条件の下に売渡し、被告は原告に対し昭和三七年四月九日右訴外人の代金支払債務について連帯保証を約した。

(二) 然るに、右訴外人は右分割金のうち金一五三、三五〇円と本訴提起後に四五、一〇〇円を支払つたのみである。そこで原告は被告に対し、右残代金二九、五五〇円と別紙計算書(二)記載のとおりの遅延損害金計金一八、六三六円以上合計金四八、一八六円及びこれに対する本訴状副本送達の翌日である昭和三八年九月一日以降完済まで商事法定利率による年六分の割合による遅延損害金の支払を求める。」

と述べ、被告の抗弁に対し「抗弁事実は否認する」と述べた。

被告は「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする」との判決を求め、答弁として「原告の請求原因事実は全て認める」と述べ、抗弁として、請求原因第二項に対し「訴外野口輝雄において支払確保のため原告に約束手形を振出し決済ずみである」と述べた。

証拠〈省略〉

理由

原告の請求原因事実は全部被告の認めて争いのないところである。

そこで次に被告の抗弁について判断するに、右抗弁事実を証すべき証拠はなく、従つて被告の抗弁は採用できない。

右原告の請求原因事実によれば、その第一項の約束手形金の請求について、その振出人たる被告は、原告に対し、少くとも(1) の約束手形金の残額と、(2) 、(3) の各約束手形金計金一〇一、七〇〇円と右各約束手形金に対する右各約束手形の満期日の翌日以降の別紙計算書(一)記載のとおりの手形法所定の年六分の割合による利息計金五、三〇〇円、以上合計金一〇七、〇〇〇円及び右計算書の利息算定期間の翌日以後である昭和三八年九月一日以降右完済に至る迄前同様の利息を支払う義務があることは明らかである。ところで、原告は右利息金五、三〇〇円についても、本訴状副本送達の翌日以降これが完済に至る迄手形法所定の年六分の利息の支払を求めている。手形法第七七条第一項第四号によつて準用される同法第四八条第一項第二号の利息は法定利息と解されているが、法定重利についての民法第四〇五条は単に元本債務の弁済期迄に生ずる約定利息についてのみ適用があるばかりでなく、後記のように遅延損害金(遅延利息)についてもその類推適用がある以上、それとの権衡から云つて、また、右条文は単に「利息」とのみ規定しているに過ぎないとの文理解釈から云つても、同条は法定利息にその適用があるものと解すべきである。前記利息金五三〇〇円のうち、(1) の約束手形金の残額金一三、九〇〇円に対するその満期日の翌日の昭和三七年六月六日以降昭和三八年六月五日迄の一年分の利息金八一二円については、原告は本訴において、本訴状副本の送達をもつて被告に対し右一年分延滞した利息の支払を求め、右不履行の場合はこれを元本債権に組入れる旨の意思を表示しているものと解し得るので、右民法第四〇五条の適用により、これについても被告は右送達の翌日である昭和三八年九月一日以降右完済に至る迄同様手形法所定の年六分の割合による利息を支払う義務があるというべきである。然しながら、(2) 、(3) の約束手形金に対する前記計算書記載の延滞利息については、右計算書記載のとおり、いずれも一年未満の期間のものであるから、原告において他に特段の主張のない以上、右条項の要件を充たさない右利息については元本組入の効果は生ぜず被告は更にこれに対し利息の支払義務を負ういわれはない。

次に、第二項の保証債務の請求については、被告は原告に対し、訴外野口輝雄の連帯保証人として少くとも同人の原告に対する買掛残代金二九、五五〇円と別紙計算書(二)記載のとおりの各分割金に対する約定遅延損害金の率以下である金一〇〇円につき日歩一〇銭の割合により算出された遅延損害金計金一八六三六円以上計金四八、一八六円と右残代金に対する右計算書記載の遅延損害金算定期間後である昭和三八年九月一日以降右完済に至る迄右約定遅延損害金の率以下である商事法定利率による年六分の割合の遅延損害金を支払う義務があることは明白である。さて、原告は本訴において右計算書記載の遅延損害金一八、六三三円について、更に本訴状副本送達の翌日以降完済迄の商事法定利率による年六分の割合の遅延損害金の支払を求めている。遅延損害金(遅延利息)に対して更に遅延損害金の発生を認める見解があるが(この場合は当然に重利計算となる。)、民法第四一九条第一項の規定の体裁から見て、同条項に遅延損害金を発生せしめる債務とは、基本(元本)債務を指称するものと解すべく、従つて遅延損害金については、当然には更に遅延損害金を発生せしめないというべきである(なお、延滞利息については、同法第四〇五条の規定の結果から、特約がない以上遅延損害金支払義務は生じないと解されている。)。然しながら、遅延損害金は法律的には、元本債務の履行により債権者が蒙る損害の賠償たる性質を有するものではあるが、右損害とは債権者が元本の使用により得べかりし利得の喪失を意味し、従つて、経済的には、約定利息のそれと同じく元本使用の対価たる性質を有し、両者につきその取扱を区別する理由は存しないのであり、民法第四O五条によれば、債務者が元本債務につき履行遅滞がなくとも、約定利息を一年分以上延滞すれば債権者はその支払を催告したる後これを元本に組入れることができるのであるから、これよりもその情が悪いというべき、債務者が元本債務を遅延損害金を一年分以上延滞した場合には、前者との権衡から見て、当然に後者の場合にも同条文の類推適用を認めるべく、右延滞の遅延損害金は債権者が同条の手続を経てこれを元本に組入れることができ、従つて、更にこれにつき遅延損害金の支払義務が生ずるものと解するを相当とする。しかるところ、前記計算書(二)記載の遅延損害金は同計算書に明らかな如く、いずれも一年未満の期間のものであるから、右遅延損害金については元本組入の効果を生ぜず、被告はこれに対して更に遅延損害金を支払う義務はないと云うべきである。

そうだとすれば、原告の本訴請求は右認定の限度においては理由があるのでこれを認容し、その余は失当として棄却し、民事訴訟法第九二条但書、第一九六条第一項を各適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 村瀬鎮雄)

別紙

計算書(一)、計算書(二)〈省略〉

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